
世界的に感染が拡大している新型インフルエンザは、現状は、のどや肺など呼吸器にのみ感染する「弱毒性」で、感染が内臓に及ぶ「強毒性」の鳥インフルエンザに比べれば致死率は低いとみられる。しかし、国際チームが、米科学誌『サイエンス』(電子版)に発表した論文によると、メキシコでの感染・死亡状況をもとに推計した新型インフルエンザの致死率は約0・4%で、1918年のスペイン風邪(同約2%)より低いが、57年のアジア風邪(同0・5%)に匹敵する。
世界保健機関(WHO)が警戒水準を「フェーズ5」にまで引き上げた後も、感染国・感染者は拡大。2波、3波の襲来も想定すれば、「フェーズ6」の世界的大流行(パンデミック)に入る可能性は低くない。
世界銀行は昨年9月のリポートで、パンデミックによる世界経済への影響を試算した。流行初年の世界のGDPは68年の香港風邪級の「軽度」で0・7%、アジア風邪級の「中度」で2・0%、スペイン風邪級の「重度」で4・8%それぞれ押し下げられる。致死率がそれほど高くなくとも、感染の広がりが大きければ、潜在的に世界経済に与えうるマイナスの影響は非常に大きなものとなる。
三菱UFJ証券は4月末、新型インフルエンザの海外での流行拡大は、09年4~6月の日本の実質GDPを0・4%程度押し下げると試算。03年に中国などで流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の影響から類推したものだ。
野村証券金融経済研究所は「新型インフルエンザの影響が概ねメキシコにとどまる限り、日本経済への影響は少ないが、特に米国に大きく広がる場合、影響が大きくなる」と分析する。日本経済への影響は、日本と関係の深い米国や中国での感染がどの程度広がるかがカギになる。
一方、被害がより深刻なのは、国内で人から人への感染が起きた場合だ。第一生命経済研究所は05年、鳥インフルエンザに関し、人から人への感染が1年続けば経済損失は約20・4兆円に達し、名目GDPを4・1%押し下げると試算した。政府は、国内感染が広がった場合、集会・興行などの自粛要請、不要不急の事業活動自粛の要請なども行う方針だが、感染状況や致死率などで対応には幅が出るとみられ、経済活動への影響は読みにくい。
◇メキシコでは商業・サービスに打撃
今回、感染が最も浸透したメキシコでは商業・サービス・観光業への打撃が大きかった。メキシコ財務相は、新型インフルエンザでメキシコのGDP成長率は0・3~0・5%押し下げられるとの見方を示した。
JETROメキシコセンターによると、メキシコ市の商業部門売上高は例年より約35%減となった。5月1日からは、商店や交通機関など生活に不可欠な業務を除き、企業活動を原則停止する措置がとられ、バー、スタジアム、映画館などが営業停止となった。同センターの中畑貴雄経済交流促進部長によると、通常は大渋滞する同市中心部の大通りが100メートル先まで車がない「がら空き」状態となり、夜間の繁華街も閑散とした。もっとも、レストランのテークアウト営業は可能で、あるレストランでは炭火焼き肉のテークアウトメニューを急遽導入。マクドナルドもドライブスルーでは購入できた。
5月6日には商業施設の営業は再開された。強制措置が短期間で終わった背景には、経済的な理由もありそうだ。メキシコは世界不況で輸出が大きく落ち込み、中央銀行は09年の実質経済成長率をマイナス4・8%と見込む。中畑部長は「外需に加え、経済活動を抑えて内需を弱めれば、経済がさらに悪化する」とみる。感染を最小限に抑える予防の面と、国内の経済活動や国民生活をできる限り阻害しないという微妙なバランスは、日本でも問題となろう。【週刊エコノミスト編集部・尾村洋介】
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◇インタビュー 外岡立人・元小樽市保健所長「冬場に入る南半球のウイルス変異が焦点」
新型インフルエンザの感染者数は5月14日現在、6500人超となっている。世界の鳥および新型インフルエンザの情報をネット上で提供している元小樽市保健所長の外岡立人氏に見通しを聞いた。【聞き手=週刊エコノミスト編集部・南敦子】
-- 国内初の感染が確認されるなど、新型インフルエンザが世界で拡大している。
外岡 H1N1型の新型インフルエンザの病原性は低い。感染者数の規模はそれほど重要ではなく、新型インフルエンザがどういう形で現れているのか、それに対して正しい対策が取られているのかどうかが大事だ。
-- 海外からの帰国者が感染している。国内感染の可能性は。
外岡 検疫で完全にウイルスの侵入を防げるわけではなく、国内でウイルスが広がる可能性は十分ある。
ただ、新型インフルエンザの病原性は、冬場に流行するにもかかわらず多くの人が無防備でいる季節性インフルエンザと同じか、むしろ低い。今回の新型インフルエンザは家で十分な休養をとれば治るものであり、感染者を隔離する政策は、過剰であるといえる。
-- 新型インフルエンザに対する国の対策行動計画をどうみるか。
外岡 国の行動計画は「机上論」的なものだ。計画は、鳥インフルエンザなど多くの犠牲者を出す可能性のある新型インフルエンザに対するものとなっている。今回は、新型インフルエンザが人から人への感染を起こし、世界保健機関(WHO)が4月27日に警戒レベルを「フェーズ4」段階に引き上げたところで行動計画が始まったわけだが、その後、今回の新型インフルエンザがどのようなものかわかってきたところで、各国では対応を臨機応変に変え始めている。
例えば、米疾病対策センター(CDC)は5月1日、児童・生徒の新型インフルエンザ感染が確認されたり、疑い症例が出た場合、少なくとも14日間休校するとする勧告を発表したが、インフルエンザの病原性が低いことから、同6日にはこれを撤廃した。また、感染拡大への対策を縮小し、今後の再流行に備える方向に転換している。
しかし、日本ではいまだ一斉休校するかどうかを議論している。
-- 日本では何が必要なのか。
外岡 現在の新型インフルエンザがどれだけの脅威を及ぼすのか、現在の対策がなぜ取られているのかを、国は国民に説明していない。今後は、情報の共有化や、国だけではなく専門家による国民への説明の場も必要ではないか。
-- 再び新型インフルエンザが猛威をふるう可能性が指摘されている。
外岡 乾燥・密閉空間が増える秋から冬にかけて、大流行する可能性はある。南半球は6~8月に季節性インフルエンザシーズンである冬場を迎える。そこで、このウイルスがどう変異するのかが注目される。
現在も、南半球ではニュージーランドやオーストラリアなどで感染者が出ている。軽症で治癒しており、病気としては問題ない。だが、H1N1型のウイルスが季節性インフルエンザと合体したり、現在の特性のまま大流行する、あるいは毒性を強める可能性も出てくる。
インドネシアやエジプトの豚に感染し、H5N1型のウイルスとの間で遺伝子組み換えを起こし、より病原性の高いウイルスに変わる危険性もあるだろう。新型インフルエンザとの戦いは、これからが本番だ。
(毎日jp)
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