
「どこから口蹄(こうてい)疫ウイルスが入ってきたのか。うわさがうわさを呼んで、何が事実か、さっぱり分からない」
宮崎県都農(つの)町のJA事務所で5月下旬、農家への電話対応に追われながら、ある職員がこぼした。
「もしかしたら明日にも、自分の農場で牛が発熱するかもしれない」。消毒作業に追われる同県内の酪農家は「毎日が覚悟の連続」と話した。
疲労し、殺気立ち、さまざまなうわさが錯綜(さくそう)。あやふやな情報が独り歩きを始めていた。
感染源として真っ先に疑いを向けられたのが、10年前の口蹄疫騒動で「断定はできないが原因の可能性が最も高い」と指摘された中国産の飼料わらだった。
中国では毎年のように口蹄疫の発生報告がある。
「わらに石や泥が混じっていたり、虫がついていたとも聞く。農家には使わないよう呼びかけているのだが...」とJAの畜産担当者。しかし、値段が安価なこともあり、少なくない農家が使用していたという。
地元の飼料輸入会社は強く反論する。わらは輸入前に消毒処理されている。さらに「中国のわらは他の地域にも流通している。もし原因なら日本中で発生しているはずだ。風評被害で、われわれだって困っている」
特定の農場を「感染源」と名指しする情報も飛び交った。「あそこは飼育牛の感染を隠蔽(いんぺい)した」という話もあった。
いずれも確証のない話だ。だが名前を挙げられた農場には、嫌がらせの電話が殺到した。
「うわさは日替わり。聞く度に中身が違っていた」。先のJA職員は振り返る。疑心暗鬼によって多くの人が傷ついた。
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ワクチン接種や殺処分が進んでいるとはいえ、感染症状が確認された牛や豚の数は毎日のように増え続けている。2日も11軒の農場で、新たに感染疑い例が確認された。
被害の拡大防止には、感染ルートの解明をする「疫学調査」や、ウイルスの解析などが必要不可欠だ。
しかし、現段階で確実に言えることは少ない。感染確認1例目のウイルスは今年、韓国や香港で発生したのと同じ「O型」タイプで、香港と99・22%、韓国と98・59%のDNAが一致。「アジアから入ってきたのは間違いない」(農水省)という程度だ。
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もちろん政府も、手をこまねいているわけではない。専門家らでつくる「疫学調査チーム」を設置。感染農家での人や車、物の流れなど、基礎的データの収集を進めている。
感染の全体像を科学的に把握することで、新たな感染の早期発見や予防、さらには再発防止などにつなげるのが疫学だ。昨年の新型インフルエンザの国内感染時にも、国の疫学チームが現地入りし、科学的なデータを自治体など関係機関に提供し続けた。
だが今回、国民の目に見える疫学チームの活動は、4月29日の第1回会合が最後。直後に感染が急拡大、「あまりに発生農場が多くなりすぎた」(同省)事情もあって、第2回会合の日程は未定のままだ。チームの明石博臣・東大大学院教授(動物ウイルス学)は「データがそろっておらず、本格的な調査に入れる態勢ではない」と話す。
「ここまでくると、感染源よりも、いつ終息するのか。それが最大の関心事ですよ」。地元JAの畜産部長、松浦寿勝さん(55)は"お手上げ"の状況をそう表現した。
■口蹄疫ウイルスの感染ルート 感染家畜やウイルスの付着した畜産物、人、車など、一般的な口蹄疫の感染経路は多岐にわたっている。野生動物や犬・ネコなどのペットに加え、ハエなど昆虫が媒介することもあるという。風にのって広がることもあり、過去にはフランスから英国、デンマークからスウェーデンへ飛んだ例もあったとされる。
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